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第65話 最愛の人へ

last update publish date: 2026-09-26 18:36:07

 一人の予約客を奪われたからといって、残る二人に出す料理まで変えるつもりはなかった。糀は予約帳を閉じた。

 店先には、開店前に届いた三鉢の白い胡蝶蘭が並んでいる。

 朝、店へ着いた糀を待っていたのは、最後の一鉢を壁際へ寄せる花屋の女性だった。

「神楽坂様からです。三席のお店だから三鉢、入口を塞がないように並べてほしいと承っております」

 花に添えられた封筒には、短い言葉が書かれていた。

《最愛の人へ。

 開店おめでとうございます。

 遅くなっても、必ず伺います。 煌》

 最愛の人。

 まだ付き合うという返事さえしていない。それなのに、煌は迷いなくそう書いていた。

 恥ずかしいのに、糀は何度もその言葉を読み返してしまった。

 会議があるため、来られるのは営業が始まってからだと聞いていた。それでも煌は、開店前から糀を驚かせた。

 糀は封筒を店の奥へしまい、厨房へ戻ろうとした。

 そのとき、通りの向かいから美咲の声が飛んできた。

 美咲は店先で列の客を案内していたが、こちらの胡蝶蘭に気づくと、わざわざ客にも聞こえるように声を張った。

「立派なお花。社長の庇護が
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